ポール・マッカートニーの偉大なるマンネリズム 005

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先日、ポール・マッカートニーのライブ行って来ました。
もう最高に楽しくて、楽しめて、特に最後のアンコールでの「Yesterday」から「HelterSkelter」からの「GoldenSlumbers〜Carry That Weigt〜The End」の怒涛のラストで僕はノックダウン!
ポールはまさに少年のようでした。このポール・マッカートニーの偉大なるマンネリズムに、
僕は気付かされたことがありました。今回はマンネリズムの話です。

テレビの世界では毎回4月と10月の改編期で新番組が誕生します。当たる番組あり、こける番組あり、いちいちテレビマンにとってホント悲喜こもごもな季節なのですが、そんな時期にスタッフで会議していると話題はいろんなテレビ局の『今月新しく始まって、視聴率がそんなにかんばしくなかった番組』の敗因分析になります。そうすると、そんなうまくいかない番組は、「勝手にでっち上げたマーケティング論とかターゲット論とかを利用し過ぎ分析し過ぎで、自分たちが得意な分野で勝負していない」からなんじゃないかと思えます。その僕らの分析が当たってるかはともかく、実は案外『得意分野で勝負しない』というこの事態が、テレビ番組だけでなく他の業界でも結構起こりがちなことなんじゃないかと思えてくるのです。

なぜ人は『得意分野で勝負しない』のか?

いろいろな理由考えられますが、それは自分自身が自分自身のマンネリに飽きてしまうからなんだと思うのです。僕がこれを最初に重く感じたのは実は若いころ自分が新番組の企画書を上司に提出したときです。
僕の企画書を読み終わった上司にこう言われました。

「この企画書って、A分野じゃん。俺が思うにお前が得意な分野ってB分野だろ!
 なのになぜA分野の企画書もってくんの?B分野で考えた方がお前は上手なのに!」


確かに僕が提出した企画は、A分野=『今まで自分がやったことない、しかし何度も会議し、様々な分析を加え、そしてなにより、今一番僕がやってみたいこと』だったのです。そして、その上司は付け加えました。

「企画が通るか通らないかは、その人に任せられるか?って信用性が大きい。
ならばお前が新企画をやりたいんなら、お前の得意分野で企画書書いてこい!」


そこで僕は考えました。僕の得意分野は何だ?と。
するとそれはB分野=『今までさんざんやったことがあり、なので会議とか分析とかそんなにしなくても容易く作れて、なおかつさんざんやったから飽きちゃったマンネリなこと』だったのです。

この状況を整理すると、企画を作るときは『新しいこと始めるときは、新しいことしたい』って気持ちが働いて『他人の庭が青く』見え、『その青い庭で、自分もやってみたい』と思いがちだということです。何か新しいこと始めるとき「僕は、今はこんなことやってるけど、ホントはもっとこんなこともできるんだよ!」って自分で思いたいのです。周りに思わせたいのです。でもその企画は今までやったことはないわけです。というかやったことないから、やりたいわけです。

しかしそんな企画はビギナーズラックで成功するか、あるいはそんなことを超越した天才って場合を除いて、ほとんどうまくいかないわけです。なぜならば、そもそもやったことないわけで、それを成立させるノウハウも自分は持ってないわけです。なので失敗する(確率が高い)。それが先ほどの改編期の『うまくいかなかった新番組』の分析と重なってきます。


ということは、何か新しい企画を作るときまず大事なのは『得意分野で勝負する』ということです。仮にその『得意分野』が、自分にとってはマンネリだと感じたとしても。そして、そのマンネリの企画で地歩を固めて、次の勝負をする。そしてそのマンネリの途上で徐々に徐々に自分のやりたいことも、こっそり企画に入れてみたりする。これが僕の考えるその企画の成立への一番の手段です。そしてそれは結果的には、実は『やりたいことをやれる』唯一の手段なのではないかとも思います。

例えばよく僕らはベテランの大御所アーティストの方々に向かって「いつも同じような曲作ってマンネリだなあ」とか感じてしまうこともありますが、実は“マンネリ”だから彼らはアーティストとして生き残っているんだと、逆に言うとベテランの大御所に到達したんだと、むしろやりたいことやり続けているから“マンネリ”でい続けているんだと、そう言えなくもないわけです。

“マンネリ”はネガティブな言葉みたいな印象がありますが、調べてみると“マンネリ”は、そもそもは芸術や文学、演劇などの型にはまった手法や、様式や態度への強い固執などを意味する英語「mannerism(マンネリズム)」の略で、きまりきった癖や作風を意味する「manner(マナー)」から生まれた言葉です。てことはそもそもはそこにネガティブな要素はなかったわけです。まさに、ポール・マッカートニーのヒット曲のオンパレードは、このマンネリズムの素晴らしさなのです。

かつてある雑誌で『どの曲も同じに聞こえる、ローリングストーンズって最高!』と敬愛する忌野清志郎さんがインタビューで答えていたのを読んだことがあるのですが、そうです、ストーンズも清志郎もポール・マッカートニーも“マンネリ”だから偉大なのです!そしてかっこいいのです!!うん、絶対そうだ!!

若い時分には自分の前に無限に『可能性』が広がっていて、その分自分の『能力』も無限だと思っていたんだと思います。そしてそれは実は間抜けな幻想だったんですけけども、でもだんだん年齢と経験を重ねて『可能性』が徐々に有限だと気付き、そして小さく小さくなり、ちょびっとになり、最近では、ついに等身大くらいになって(笑)、でも自分の能力もそれに比例して、徐々に自分のやれること・やれないことを経験して、今、自分にはまさに等身大の能力があるわけです。

まさに“等身大の能力で、等身大の可能性に挑戦”。

それは“マンネリズムで、やりたいことをやり続ける”ってこと。
結局、僕はそんなことを思いながら、日々バラエティにマンネリズムにあらゆるものを作っているのです。


ky角田 陽一郎 かくたよういちろう
バラエティプロデューサー/ディレクター/映画監督

いとうせいこう/ユースケ・サンタマリアMCの深夜のTBSトーク番組「オトナの!」プロデューサー
東京大学文学部西洋史学科卒業後、TBSテレビに入社。TVプロデューサー、ディレクターとして「さんまのスーパーからくりTV」「中居正広の金曜日のスマたちへ」「EXILE魂」等、主にバラエティー番組の企画制作のほか、映画「げんげ」監督、ACC CMフェスティバル・インタラクティブ部門審査員、その他多種多様なメディアビジネスをプロデュース。著書「究極の人間関係分析学 カテゴライズド」(クロスメディア・パブリッシング刊)、編著「オトナの!格言」(河出書房新社刊)好評発売中。


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