ビューティフル・ドリーマーとサマータイムマシン・ブルース 003


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先日行われた『オトナの!』の4月収録のゲストは、なんと押井守監督と本広克行監督!
今回はそんな尊敬するお二人の話です。

僕が尊敬するアニメ監督の押井監督に、来月5月から公開する映画
『THE NEXT GENERATIONパトレイバー 首都決戦』の番宣タイミングでまずは声をかけさせていただきました。

「THE NEXT GENERATION パトレイバー」
http://patlabor-nextgeneration.com

それこそ番組開始当初から押井監督にはずーっと出演していただきたいと心に秘めていたのですが、自分が押井ファンであるからこそ、その交渉は困難が予想されて、多分なかなかテレビのトーク番組には出演していただけないだろう!でも実写版のパトレイバーがいよいよ公開という暁なら、万が一の確率であるかもしれない!そんなタイミングを見計らって意気込んで交渉に臨んだら、なんと押井監督にあっさりOKをいただけました。・・・決め手はなんと“『オトナの!』はタバコが吸えるから”。監督曰く「テレビでタバコ吸ってもいいのは宮崎駿だけかと思ってた」。もう取材でお会いした瞬間から押井節が炸裂でした。

押井作品は全部見てるけど、そこまでハマったきっかけは1984年の映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』。ちなみにこの後の日本アニメ界を変える名作が公開された1984年は、『風の谷のナウシカ』と『超時空要塞マクロス 愛・覚えていますか?』も公開された年で、まさにアニメが進化した
契機となる年なのです。そんな1984年に僕はまさに中学2年生の14歳。もともと『うる星やつら』が大好きで漫画もテレビアニメも小学生の頃から良く見ていたのですが、映画館でこの映画に出会ったときの衝撃は今も忘れません。あまりのわけのわからなさと、痛快で爽快で謎めいて、一撃でその圧倒的世界観に圧倒され、数日後に2回目を映画館に見に行き、その後VHSのパッケージビデオが発売されたら、当時1万円近くして14歳には高い買い物でしたが、貯金はたいて早速購入して見まくり、多分それから今まで1000回くらい見てるんじゃないかと思うのです。それでも見るたびにあらたな発見があって、もう本当に人生を変えた作品です。

作品の中では文化祭の前日が延々と繰り返されます。いつまで経っても祭りの準備。それは『うる星やつら』の世界そのものを現すと同時に、僕たちの人生、まさにそのものをも現しているのです。夢が叶ってしまう直前こそが一番楽しい。いつまでたってもやってこない祭りの本番。僕はこの作品と出会ってそんな人生の真実を知ってしまって、ちょうど中2のときに中2病になってしまうような作品に出会ってしまって、僕はそこからずーっと中2をやってるのかもしれません。夢を追い続け、祭りの準備を延々とやり続けてるのかもしれないのです。

そんな作品を生み出した憧れの押井守監督に会える。取材当日は緊張でした。取材って言っても、「話す内容は監督の思いのままで良いです!」「わかった」で終了。それ以上は聞けませんでした。話は、どなたと一緒にご出演するか?に移り、「俺は人見知りだから知ってる人がいいな。」ってことで、監督から挙がったお名前がなんと本広克行監督。うおおお、この組み合わせでトークができるのか!!なんてすごいんだ!自分の番組ながら大興奮です。

数日後、本広監督の元を訪ねました。実は本広監督自身が大の押井ファンなわけです。取材をはじめると、どんだけ『ビューティフル・ドリーマー』がすごいのか!って話で若いスタッフほったらかしで二人で勝手に盛り上がってしまいました。そもそも本広監督の初監督映画『7月7日、晴れ』は『ビューティフル・ドリーマー』のインスピレーションを受けてるし、『踊る大捜査線』は『パトレイバー』に触発されて撮影したらしいのです。それを楽しそうに語る本広監督のお話は、すごく愛情に溢れていて、聞いているこっちも楽しくなってしまいました。ちなみに監督は『探偵!ナイトスクープ』の大ファンで、その話でも盛り上がっちゃいました。そんな監督自身から他作品への愛情ある話をお伺いして、本広監督の『踊る大捜査線』シリーズや、ヨーロッパ企画はじめ舞台作品の映画もそうですが、僕は本広作品の魅力がこの際はっきりわかりました。それは本広監督作品から溢れ出てくる他作品への愛情・オマージュです。それが引用とか真似をするとかいう技巧やテクニックを超えて、本当に本広監督自身が真っ当に好きなんだっていう真摯な思いが作品から滲み出てくるからなのです。

あまりに押井監督の話でもりあがってしまい、僕は本広監督に実は伝え忘れてしまったのですが、僕は本広作品では2005年の『サマータイムマシーン・ブルース』が特に大好きで、この世界一ゆるいであろうタイムトラベル作品の中での、世界の数多あるタイムトラベル作品へのレスペクト感がたまらない魅力なわけです。もし僕が映画監督をすることがあったら、こんなものすごくくだらない、それでいてものすごく素敵な映画が作れたら最高だな、って当時思っていたのでした。そして僕が2013年に初めて監督した映画『げんげ』は実は、『サマータイムマシーン・ブルース』に触発されて作りました。そのお話はまた次回にでもできればと思います。

ある作品にインスピレーションを受けて別の作品が作られ、そしてその作品をを見て触発された者が、また別の作品を産み出していく。次から次へと想像が創造をしていく連鎖、そんなシーンが映画『ビューティフル・ドリーマー』にはあるのですが、そうか押井監督は、その時そこまで暗示していたのかと思うと、僕は押井守の描いた壮大な“美しい夢”に今でも圧倒されてしまうのです。

収録当日は、すばらしく最高のものなりました。5月にOAいたします。ぜひご覧ください。

ky角田 陽一郎 かくたよういちろう
バラエティプロデューサー/ディレクター/映画監督

いとうせいこう/ユースケ・サンタマリアMCの深夜のTBSトーク番組「オトナの!」プロデューサー
東京大学文学部西洋史学科卒業後、TBSテレビに入社。TVプロデューサー、ディレクターとして「さんまのスーパーからくりTV」「中居正広の金曜日のスマたちへ」「EXILE魂」等、主にバラエティー番組の企画制作のほか、映画「げんげ」監督、ACC CMフェスティバル・インタラクティブ部門審査員、その他多種多様なメディアビジネスをプロデュース。著書「究極の人間関係分析学 カテゴライズド」(クロスメディア・パブリッシング刊)、編著「オトナの!格言」(河出書房新社刊)好評発売中。

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